もうちょっと真剣に考えよう。役人が作った街に住みたいか、それとも本当の「自分たちの街」を作りたいのか。

今よりも人口がはるかに少なかった江戸時代の町のマネジメントは、その地域に住む人々によって行われており、道路を作るにしても土を運ぶ人、水を運ぶ人、石を積む人など、それぞれ役割を分担し合って作業し、住民が町を管理していくことは当たり前とされていました。(1)

時代の流れと共に人と町の間には行政が介入するようになり、町のマネジメントはもっぱら行政が行うようになったことや、仕事に追われ多忙な日々を送る現代人にとって、町はただの「家がある場所」でしかなくなってしまったことで、今では住民と町との結びつきが希薄化してしまっているように感じます。

TOKYO -MARCH 2, 2015: people busy with smartphones and tablets i
↑人々にとって、家はただの帰る場所、それ以上でもそれ以下でもない。

「地方創生」という政策のもと、各地域で街づくりが盛んになってきている昨今、行政から支給される補助金をもとに街づくりを行う地域がありますが、黙っていても予算としてやってくる補助金は、地域経済の循環を促すために必要な「稼ぐ」ということを二の次にしてしまうため、地域の自立心を奪うほか、補助金の対象になるようなありきたりな事業アイデアしか生まれなくなってしまうようです。

例えば、青森県の駅前開発で185億円もの費用をかけて建設された商業施設「アウガ」は85億円が行政からの補助として支給されたものの、経営は初めの月から赤字となってしまい、現在でも融資が必要だったりと、活性どころか地域経済を圧迫する要因になっていると言われています。

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↑補助金は稼ぐという意識を低下させ、どんどん負のスパイラルにはまっていく。

全国各地で経営を中心とした街づくりに取り組む木下斉さんは行政からの補助金を「麻薬」と呼び、補助金に頼らない街づくりを推奨しています。そもそも補助金はわたしたちが収めた税金であり、消費税率が8%に上昇しているのにも関わらず、現在の税収額は、消費税率5%だった頃とほぼ同じ数値に止まっているように、今後ますます人口減少が予想されている日本では税収が減ることが予想され、最終的には地域活性のために支給されていた補助金にも影響が出てくるかもしれません。(2)

Young man cocaine addicted
↑補助金はある種の「麻薬」。

そんな補助金に頼らない街づくりを行う「MAD City」と呼ばれるエリアが千葉県松戸駅の半径500mという小規模な範囲に存在しており、2010年以降、行政に頼るのではなく、住民たちの力で街を変えていこうと、昔からの住民と新しく入ってきた住民とが手を取り合い、現代アートや建築家などさまざまなアーティストを巻き込んだ街づくりが行われています。

この街づくりの中心となっている民間業者「まちづクリエイティブ」の代表、寺井元一さんは街を最大限活用することを目標としており、シェアハウス、ワークシェア、そしてカーシェアのように、街全体をシェアする“タウンシェア”を掲げ取り組んでいるほか、「DIY精神」を大切にしており、築100年の古民家を現代アーティストのアトリエ、工芸品の制作場や建築家の工房に使用するなど、歴史ある建物も躊躇することなく使いこなしているそうです。

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↑お金に頼るのではなく、アイデアや自分たちの行動力に頼る。

江戸時代に宿場町として栄え、常にいろいろな人が行き来していた松戸市の住民は、新しい文化を取り入れることに寛容であるため、歴史的建造物を使用するなど、一般的に考えれば拒まれそうなアイデアも受け入れてくれるのだと言います。だからこそMAD Cityの街づくりが実現しているのだそうで、寺井さんは街づくりをする上で重要なことを次のように述べています

「新しい町をつくるっていうビジョンを、もともと住んでいる人たちに受け入れてもらえるかってすごく重要です。だって、困っているわけじゃなければよそ者なんて入ってこなくていいし、勝手にわけのわからないことを言わないでくれと普通は思います。だから、やる気はあるんだけど困ってるっていうのは、まちづくりに関わる上ではひとつポイントなんです。」

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↑古いものと新しいものを融合させながら、補助金に頼らず街を変えていく。

松戸駅から徒歩2分に位置するビルの空き店舗となっていたワンフロア部分も、MAD Cityが「PARADISE STUDIO」として運営しているそうですが、もともと防音設備がしっかり施されているため、音楽家や劇団などの音を気にせず活動したいアーティストたちに活用してもらっているそうで、今では海外から多くのアーティストも訪れてくるのだと言います。

日本の人口が減少するにつれ、地方都市などでは空き店舗が増加しており、また、莫大なお金を投下して新しい建物や施設を造って街を立て直すというのは大きなリスクがありますから、新しいものを生み出すのではなく、今あるものをどのように再生するかという「DIY精神」がこれからの街づくりの重要なポイントになってくるのかもしれません。

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↑ものゴトの正確性よりも、自分たちで何かを作り出す楽しさ。

住民の意見も積極的に街づくりに取り入れようと、MAD Cityではイベントを介した交流会を行っているそうで、住民同士でお互いがこの町でやりたいことなどを話し合い、何気ない会話の中から一つのアイデアが生まれ、そのアイデアを共有することで、また別の新しいアイデアが生まれるのだと言います。

このようにコミュニケーションを活発にしながら住民同士が意見交換し合うことで、アーティストが店舗の一部をデザインしたり、店舗の外壁にペイントをしたりなど、町のあらゆる場所で住民の作品を見つけることができ、MAD Cityの街づくりが始まってから、今では150人ものアーティストがこの街づくりに参加しているそうです。

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↑その街に住む住民が作った芸術だからこそ、価値がある。

仕事とプライベートの区別が曖昧だと言われるイタリアでは、仕事中のプライベートな電話や雑談が仕事を一時中断してしまうことは日常的であるものの、家族経営の中小企業が多いため、家族での食卓の会話がいつの間にか営業会議に発展することもあり、そこから良いアイデアが生まれることも多いようで、意見の出し合いが良いアイデアに繋がることが分かります。(4)

住民は道路の補正や掃除は電話をすれば行政が対応してくれるのが当然と考え、行政は住民から依頼があれば即座に対応しなければならないと考え、この関係性が住民を「お客さん」にさせてしまったことは否定できません。

もともと「街」とは自分たちが家をつくることから始まっているのであり、街に無関心でいる人々に対し、地域の中で人と人とがつながる仕組みをつくる「コミュニティデザイン」で活躍している山崎亮さんは次のように述べています。

「まちはみなさんが生み出したものなのです。まちのことは私たちに関係ない、役所に任せておけばいいというわけではないのです。」(3)

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↑役人に作られた街に住みたいか、それとも自分で作った街に住みたいか。

「DIY精神」の街づくりとは、持続的な良い街をつくるために、今までのようにたくさんの税金を使って立派な建物や広場を増やすことよりも、今あるものをどのように最大限活用できるかを考えるべきなのかもしれません。

そのために、実際にその地域に住んでいる住民の意見が必要であり、意見やアイデアを引き出すためにも、住民同士のコミュニケーションが重要になってくるのではないでしょうか。その地域に住んでいない行政の人々ではなく、住民によってカスタマイズされているMAD Cityは、これからもどんどん住民にとって居心地の良い場所へと変わっていくはずです。

《参考文献》
1.山崎 亮「コミュニティデザインの時代 自分たちで「まち」をつくる」(中公新署、2012年)
2.嶋田 洋平「ほしい暮らしは自分でつくる ぼくらのリノベーションまちづくり」(日経BP社、2015年)
3.山崎 亮「コミュニティデザインの時代 自分たちで「まち」をつくる」(中公新署、2012年)
4.宮嶋 勲「最後はなぜかうまくいくイタリア人」(日本経済新聞、2015年)

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真面目系会社員を経てライターへ転身。社会と日本海の荒波に揉まれながら日々平穏を探している。好きなものは赤ワイン。止められないものは日本酒。夢はいつか赤ちょうちんの灯る店で吉田類と盃を交わすこと。