ブリュワー的、コンブチャとパンドミ

_SHIP の門田です。

記憶のスイッチ

何かを記憶を思い出すときに、皆さんはどういうきっかけがあるでしょうか?
道端でたまたま耳に入ってきた言葉。「言葉」
10代の時に聞いていたヒットチャートを久々に聞いたとき。「音」
それとも交差点で信号待ちをしている人の後ろ姿だったり。「形」

僕は「香り」が一番、記憶を呼び起こすことが多いです。
それは今見ている景色とは違う、意識もしていなかった記憶が蘇ってきます。
特筆する香りではないのに、個人の体験と知らぬ間に結びついていて、
香りを通じて、自分自身の体験を振り返ることがあります。

今回は_SHIP のブリュワリー隣にある1110 CAFE/BAKERYで
人気のパンドミのお話。
普段はパンの香ばしい香りに食欲を刺激されて一つ二つパンを買って、食べるところを
その時は完了させたい仕事のためにその時間をパスして、一心不乱にコンブチャの仕込みを行っていました。
その作業がひと段落して、1110 CAFE/BAKERYの前を通った時にふっと鼻に漂ってきたパンの香り。それは僕を20年以上も前に連れて行ってくれました。

子供時代の記憶

私が小学生の頃、母親が自宅で毎朝晩にパンを焼いてくれてました。
いえ、正しくは母がパン作りを上手になりたいから、食べさせたれていたという感覚の方が正しい。毎日焼きたてのパンが食べられるのに、子供ながらに苦行のような気持ちで、「美味しい」と言っていた気がします。なので僕にとっては、明日もパンを食べるかと思うと心底美味しいということを言えずにいました。
ただ、毎日食べていると、出来上がりの違いがわかってくるようになります。
母が日夜、パン作りに精を出している様子を見ていると応援したくなる気持ちに変わっていきました。

画像2

ある朝、起きてキッチンに向かうと、とても焼き目が綺麗で、しっかりと山が膨らんで
パンドミが焼きあがっていました。食べても美味しい会心の出来だったと思います。
素直に「美味しい」と母に伝えました。
私の母は、ことパン作りにおいては褒められても、ダメだしを欲しがる向上心の塊のような人なので、子供からは母の気持ちは慮ることはできませんでした。

衝撃の展開

その数日後、お昼の時間。
クラス全員で「いただきます」の準備をしていた時です。
担任の先生から、
「今日は皆さんに、門田君のお母さんがパンを焼いてきてくれました」

小学生の私は、
「。。。。。」

気持ちを察して頂けるのではないでしょうか?
小学生の男児として、母親が参観日でもないのに現れる居心地の悪さというと、もう例えようがありません。顔を真っ赤にして下を向いていた気がします。
早くこの時間が過ぎてくれと、唱えていたと思います。
その時間がどれ位あったのかはもう思い出せないのですが、
普段あまり話をしないクラスメイトからも
「こんなパンを毎日食べられるの、うらやましわ」
「次はいつ持ってきてくれんの?」
「食べへんねやったら、頂戴」

そう、母のパンがめちゃくちゃ評価されたんです。
その気持ちはとても不思議な感覚で、自分が作ったものではないのに
どこか誇らしい、嬉しい気持ちで満たされました。

発酵する記憶

そんな私が今、大泉工場でパン作りではなくコンブチャ作りをしています。
それぞれ発酵のプロセスを経て、作り上げるという意味では似ているので、
時が経過した今、子供時代に母がもたらしてくれた経験がここに連れて来てくれたのかな?っと、香りをきっかけに考えたりもしました。

以上

ん?ちょっと待てよ。
小学校にパンを持ってくる母も母だが、それを配る先生も先生じゃないか。
もしこれが、代々引き継がれているぬか漬けだったら、先生は配ってくれていたのだろうか?(もちろん、白ご飯の日に)
作りすぎた炒め物なんてものは当然、断られるだろうが、なぜパンは良かったのか。
今思うと、僕の住む地域でパンは珍しかったとは思う。
先生も子供たちが絶対に喜ぶと思って通してくれた一大決心だったのか。

誰かの記憶になる

この一件が、その時のクラスメイトの記憶にどこまで刺さっているのは残念ながら確認できない。
ただ僕にとってはパンの香りをきっかけに明確に、脳内に残っていることがわかった。
母の手で作ったものが、これだけの人を巻き込んで、素敵な時間を作り出したこと。
この経験が僕の食に関する原体験といえるかもしれない。

〈余談〉
今、コンブチャを父親として、小学校に持って行ったらどうなんだろう。
(そもそも、食品を持ち込めない時代になっている気はするが)
ジュースの差し入れは当然ダメだろう。
暑いからと言って、スポーツドリンクの提供も難しそう。
発酵食品だし、ジュースでもない、丁寧に作ったクラフトドリンクを今の先生はどう汲み取ってくれるのだろうか。
子供たちにとって、特別な体験になるのでは?(酸味が苦手な子多いけど)
私は、それくらいコンブチャが認知されて、
みんなが飲めて嬉しい気持ちになるそんなコンブチャを作っていきたい。

ABOUTこの記事をかいた人

Hajime Kadota

_SHIP KOMBUCHAブリュワー。 ファッションの専門学校を卒業後、日本特有の本藍染技術に魅了され京都の工房で藍染職人として着物や有名アパレルブランドの藍染を行う。 お客様へ自身が発酵に携わった製品を届けたい想いが強くなり、お茶を発酵させたスパークリング飲料「コンブチャ」と出会い、大泉工場へ入社。 自身がアルコールが得意ではなく、アルコールを飲む人も飲まない人も楽しめるような飲料を作りたいと想い2020年から_SHIP KOMBUCHAのブリュワーへ。 大切にしているのは「誰も取り残さない世界」。 アルコールもノンアルコールも同じ世界で楽しめる世界をつくりたい。