素敵な環境の創造は、気づくことから始まる

僕は、山中湖にある別荘を手放そうとしていた。

先代から受け継いだ場所ではあったが、20年以上、ほとんど活用できていなかった。

ごくたまに知人と訪れてはいたものの、ずさんな管理で宿泊するまでには至らず、なんとなく立ち寄って状況を確認する程度だった。

古い冷蔵庫やテレビ、CDプレーヤー、使い古された家具などが残され、室内はちょっと埃っぽい。一日滞在したら、体調を崩してしまうのではないかと思うような場所だった。

使っていないのに発生する管理費や水道光熱費。その費用を銀行で振り込むたびに、ストレスが溜まっていく。

僕はこの場所を、本気で手放したいと考えていた。

この場所の良さを深く考えることもなく、表層的な面倒ごととして捉えていたのだ。

そして、手放すための手続きに入る前、最後の確認をしに行った日。

僕の気持ちは、大きく揺らぐことになる。

数年放置してしまっていた室内はボロボロだった。外に置いてあったと思っていた自転車まで室内に入れられ、人が過ごすことのできない、まさにゴミ屋敷と化していた。

「やはり、手放そう」

そんな気持ちで室内を確認していた。

しかし、しばらく開閉していなかったベランダへと続く窓を開けた瞬間、これでもかという勢いで聳え立つ富士山が、僕の目の前に現れた。

富士山が雲に隠れず、完全な姿で見られるのは、年間でも3割程度らしい。

その日は、見事にその3割に当たった。

幼少期、家族で毎年訪れていたこの場所。

ベランダから当たり前のように眺めていた富士山が、こんなにも美しいものだったのかと、僕は全身に鳥肌が立った。

手放してはいけない。

直感でそう思った。

富士山は、ずっとそこにあった。

この別荘の価値が失われていたわけではない。僕が、その価値を見ようとしていなかっただけなのだ。

自分にとって大切な場所は、自分次第で創ることができる。

ただし、何もないところから、ゼロからつくり上げるのは、簡単なことではない。

だからこそ、まずはすでにそこにある価値に気づくことが大切なのだと思う。

プライベートを過ごす場所も、仕事をする場所も、その場所を素敵な環境にできるかどうかは、自分たちの見方と行動によって変わっていく。

当たり前のことのようだが、僕たちは意外と、身近にある価値に気づけない。

僕も、富士山が目の前に現れるまで、長い間その価値を見失っていた。

窓を開けたその日、僕はすぐに知人の設計士へ連絡し、室内の改装プランを出してもらうことにした。

僕が敬愛しているその設計士は、すぐに業者さんを連れて山中湖まで来てくれ、一緒にプランを考えてくれた。

僕がこの場所で最も大切にしたいものは、富士山一択。

それ以外は、正直なくてもいい。

幼少期の記憶と、目の前に広がる唯一無二の景色。

僕が新しく価値をつくる必要はなかった。すでにそこにある価値を活かせばよかったのだ。

そして完成したのは、必要最低限のものだけがありながら、最大6人が宿泊できる別荘だった。

ベランダから望む富士山には、もちろん何も手を加えていない。変えたのは、そこにある景色と向き合うための、ベランダのあり方だけだ。

初めて訪れる人にとっては、何ということのない場所かもしれない。

しかし僕にとっては、幼少期に家族で過ごした場所が、以前にも増して大切な場所になった。

改めて思う。

素敵な環境を創るとは、何もないところに新しいものをつくることだけではない。

すでにそこにある価値に気づき、何を残し、何を削るのかを考え、自分の意思で手を加えていくことでもある。

そして、そうした場所は一つである必要はない。

僕たちの身近なところにも、まだ気づいていない価値がきっと存在している。

どんな場所や土地にも、積み重ねてきたストーリーがある。その価値をどう汲み取り、どのように未来へつないでいくかは、人それぞれだ。

僕は山中湖を訪れるたびに、そんなことを考える。

考えてみれば、これは僕が経営する大泉工場で、僕たちが続けてきたことにも重なる。

古くなった建物や、使われなくなった空間。

その土地が積み重ねてきた時間をすべて壊して新しくするのではなく、そこに残る価値を見つけ、磨き直し、次の時代へとつないでいく。

「素敵な環境を創造し続ける」とは、何もないところから何かを生み出すことだけではない。

すでにそこにある価値に気づくことから始まるのだ。

山中湖のこの場所も、これからは多くの仲間たちと活用していきたいと考えている。

日常から少し離れ、富士山を眺めながら語り合うことで、それぞれの中に眠っている新しい気づきが生まれるかもしれない。

僕たちが創りたいのは、見た目が整った場所だけではない。

そこで過ごす人の気持ちや行動、そして未来まで少し変えてしまうような環境だ。

すでにある価値に気づき、それを磨き、次の未来へつないでいく。

そんな仕事に共感してくれる人と、僕は一緒に働きたいと思っている。

>大泉工場リクルートページ

ベランダから望む、霊峰富士山。