グロースグループを統括している清水です。
最近、仕事をしている中で「人ではなく、システムを管理する」ということを重要なテーマとして考えています。
これは名著『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』の第6章に登場する概念です。本書では、自己規律のある人を細かく管理するのではなく、明確な枠組みの中で自由と責任を与える「規律の文化」について書かれていますが、私自身、この考え方は会社が成長していく上ですごく重要だと感じています。また、組織づくりだけではなく、日々の業務改善にも共通する考え方だと思っています。
そんな中、以前の人事会議で「会社が大事にしているカルチャーを、評価にも反映していこう」ということを決定しました。売上や目標達成だけではなく、会社として大切にしている行動もきちんと評価するということですが、一方で、カルチャーを評価するためには、会社として大事にしていることを、日頃の具体的な行動に置き換える必要があります。
例えば大泉工場では、メンバー全員が定期的にコラムを書いてSlackで共有しています。自分の考えを言葉にして発信することはもちろん、他のメンバーが書いたものを読んで、リアクションしたり、コメントしたりすることも大事にしています。
そこで、自身のコラム投稿と、他のメンバーのコラムへの参加率を一つの行動指標として可視化し、評価につなげる仕組みをつくることにしました。ただ、これを毎回人が集計していたら、それ自体が新しい業務になってしまいます。そこで、Slack APIとGoogle Apps Script(GAS)を使って、集計から社員別の参加率の算出までを自動化することにしました。
01|Slack上の日常の行動を、そのままデータにする

※実際のSlackの投稿
まず考えたのは、自身のコラム投稿と、他のメンバーのコラムへの参加を可視化することでした。ただ、これを評価しようとすると「誰が投稿したか?」「誰がリアクションしたか?」「誰がコメントしたか?」を毎回集計する仕事が発生してしまいます。評価の仕組みをつくるために日々の集計業務を増やしてしまっては意味がないので、皆さんにはこれまで通りSlackに投稿していただき、その行動の裏側で自動的にデータ化することにしました。
今回使ったのは、Slack API、GAS、Googleスプレッドシートです。技術的には決して新しいものではなく、エンジニアの方からすれば基本的な仕組みだと思います。ただ、我々のような中小企業の業務の自動化は、まずはこのようなところから始めてみることが良いと考えています。つまり新しいシステムを入れるのではなく、すでに使っているツール同士をつなぐということですが、ちなみに今回つくった仕組みはこんな構成です。
【社員】
Slackにコラムを投稿
↓
通常通りリアクション・コメント
↓
【Slack API】
対象チャンネルからデータを取得
・タイトル
・投稿URL
・投稿者
・投稿日
・リアクション
・コメント
↓
【Google Apps Script】
取得したデータを加工
・同一人物の重複を除外
・本人投稿を評価対象から除外
・社員別の参加数 / 参加率を計算
↓
【Google Spreadsheet】
<コラム別>
リアクション / コメント / 参加者
<社員別>
本人投稿 / 参加投稿 / 評価対象数
参加率 / コメント率
↓
【人事評価】
カルチャーへの日頃の参加を
評価の一つの参考データへ
これで誰も評価のために新しいシートへ入力する必要もないですし、管理者が月末にSlackを遡って数える必要もありません。これまで通りSlackを使っていれば、その行動が自然にデータとして残るようになっています。
02|何を「参加」とするのか?

今回、仕組みをつくる中で一番考えたのはコードではなく、何を評価するのか?という点でした。例えば、同じコラムにリアクションスタンプを3種類押したから3点、さらにコメントをしたから1点追加、ではありません。見たいのはリアクションの「数」ではなくて、他のメンバーの発信に参加したかどうかでした。そこで、コード上ではリアクションした人とコメントした人をまとめ、重複を除外しています。
const participantSet = new Set([
…reactionSet,
…commentSet
]);
リアクションでもコメントでも、そのコラムに関われば「参加=1」としました。ただ、実際に動かしてみると、もう一つ課題が出てきました。自分が書いたコラムには、自分でリアクションすることは基本的にありません。例えば全15本のコラムのうち、自分が1本を書いて、残り14本すべてに参加した場合、「14÷15=93.3%」ではなく「14÷14=100%」とした方が実態に合っています。そこで、本人が投稿したコラムは評価対象から自動的に除外します。
const eligiblePosts =
totalPosts – employee.authorPosts;
const participationRate =
employee.participationPosts / eligiblePosts;
ちなみに、こうしたルールを一つひとつ細かく考えていくと、システムをつくることは、会社として何をどのように評価するべきか?に目を向け、それを主観的に偏りなく実装していくことであると感じました。
03|カルチャーを、評価の仕組みにする

もちろん、Slackの参加率が高い人=良い社員、という単純な話ではありません。売上、利益、目標達成、プロジェクトへの貢献など、評価にはさまざまな視点があります。
今回「発信する」「他者の考えに触れる」「組織の議論に参加する」という行動を可視化したのは、代表の大泉が以前から大切にしている考えを、日頃の具体的な行動として捉えられないか?と考えたためですが、今回の仕組みによって、これまで、なんとなくの印象や記憶で捉えていた行動の一部を、日常業務を増やすことなくデータとして残せるようになりました。
一方で、この参加率から具体的な評価制度への落とし込みはこれからです。 今回はその前段として、会社が大切にしていることを具体的な行動に置き換え、それを自然に可視化できるところまでをつくりました。
ちなみに、これは大泉工場だけの話ではないと思っています。それぞれの会社に大切にしているカルチャーがあるのであれば、それを言葉として掲げるだけではなく、どのような日頃の行動に表れているのかを考え、仕組みにしてみる。 今あるツールを使えば小さく始められるので、一つの事例として参考にしていただけたらと思っています。
04|実際に、どんなコードを書いたのか

せっかくなので、今回つくった仕組みの中身も少し紹介します。今回の自動化では、Slackからリアクションやコメントの情報を取得し、GASで社員ごとに集計して、Googleスプレッドシートへ出力しています。
例えば、最終的な社員別の集計結果は、参加率の高い順に自動で並ぶようにしています。
employeeSheet
.getRange(2, 1, output.length, 9)
.sort([
{ column: 8, ascending: false },
{ column: 9, ascending: false }
]);
これによって、データを取得した後に、人が並び替えたりランキングをつくったりする必要もありません。スプレッドシートを開けば、その時点の参加状況をそのまま確認できるようにしています。また、日々の運用では、スプレッドシートのメニューから更新できるようにしています。Slackから最新の情報を取得し、集計結果を更新するところまでを一つの流れにすることで、毎回コードを開いて実行する必要もありません。
function onOpen() {
SpreadsheetApp.getUi()
.createMenu(‘更新’)
.addItem(‘Slackデータを更新’, ‘updateSlackData’)
.addToUi();
}
こうして見ると、一つひとつのコードは決して難しいものではありません。むしろ今回面白かったのは、コードを書くこと以上に、「何を取得するのか」「どう集計するのか」「どう見せれば管理する仕事を減らせるのか」を一つずつ決めていく必要があったことです。
業務を自動化することは、今まで人がなんとなく判断していた仕事を、一つずつルールとして言語化していくことでもあるのだと思います。
05|仕事の価値を考え、まず自分で小さく試す

※参考:入山章栄教授/スマイルカーブ現象
入山章栄教授が、これからの仕事の価値を考える上で「スマイルカーブ」という考え方を紹介しています。仕事の工程を並べたときに、上流にある構想・設計・意思決定と、下流にある現場での実行・改善・顧客体験の価値が高く、その間にある定型的な業務の価値は相対的に下がっていくという考え方です。
私自身も最近、このスマイルカーブを仕事を見る一つの軸にしています。特にAIの普及によって、データの入力、転記、集計、定型的な資料作成などは、できるだけ人がやらない仕組みに変えていく必要があると考えています。
その一方で、何を自動化するのかを考え、仕組みを設計することの重要性は、むしろ高まっています。会社全体を見ていると、「ここは変えた方がいい」「これは仕組みにできそうだ」という小さな課題が日々見つかります。そのたびに最初から大きなプロジェクトを立ち上げるのではなく、まず自分で小さく試してみる。今はAIもあるので、非エンジニアでもその検証を始められる範囲はかなり広がりました。
ただし、大切なのは自分でやり続けることではありません。小さく試して効果を確かめ、結果が見込めるところまで検証できたら、組織のプロジェクトにして、適切なメンバーへ権限を移譲する。中小企業では、この進め方がすごく大事だと思っています。
「人ではなく、システムを管理する」
今回の取り組みも、そんな会社づくりの小さな一歩だと考えています。






